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沼津港向かいの30リットル

ベアードビールが25年かけて書き加えた「日本のクラフトビール」

2000年、静岡県沼津市。魚市場の向かいにできた小さなタップルームつきの醸造所で、アメリカ人のブライアン・ベアード(Bryan Baird)氏と妻のさゆり氏は、わずか30リットルという家庭用鍋に毛が生えた程度の容量の仕込釜の前に立っていた。自らを「craft beer」と名乗るビールメーカーを、日本で最初に立ち上げた瞬間だった。

1994年の酒税法改正で、ビールの最低製造数量基準が2,000キロリットルから60キロリットルへと大幅に引き下げられた。大手ビール会社の事実上の独占だった市場に、小規模な造り手が参入できる制度が、ここで初めて整った。1994年のエチゴビール、1996年のヤッホーブルーイング、1997年の伊勢角屋麦酒、そして2000年の沼津港のベアードが続いた。のちに「第二波クラフトビールのパイオニア」と呼ばれる系譜の、最後に灯ったひとつの火である。

「生きているビール」と名乗るための、四つの選択

ベアードが自社を説明するときに繰り返し引く言葉がある。「Baird Beer is alive, not dead, in package.」瓶のなかでも、ベアードビールは死んでいない、という宣言である。この一文を技術で裏打ちしているのが、四つの選択である。

一つ目は、ホップの扱い。抽出効率に優れるペレットや濃縮液ではなく、収穫されたままの姿のホール・フラワー・ホップだけを使う。二つ目は、無ろ過。酵母や麦芽由来の成分をフィルターで削ぎ落とさず、ビールの厚みをそのまま残す。三つ目は、瓶内二次発酵。出荷前の瓶のなかで酵母がもう一度働き、炭酸を自然に生み出す。四つ目は、非加熱。熱処理で酵母の活性を止めず、瓶のなかで熟成が続く状態で送り出す。

この四つを同時に守るということは、工業的なビール生産の反対側に立つということである。それぞれが効率を犠牲にし、管理を難しくする。ただし同時にこの四つは、スコットランドのエール酵母と日本の氷砂糖(こおりざとう)、英国のマリス・オッター麦、米国太平洋岸北西部のホップ、そして伊豆の軟水、という国境を越えた素材の対話を、瓶のなかでも続けていくための条件でもある。ビールは出荷後も変化し続ける、という前提に立った設計である。

修善寺のブルワリー・ガーデンズ

2014年、ベアードは沼津のブルワリーを拡張する形で、伊豆半島・修善寺に約3ヘクタールのブルワリー・ガーデンズを開いた。弘法大師が西暦807年に開いたと伝わるこの温泉地の一角。ホップやハーブの畑、仕込み場、タップルーム、レストラン、そして丘の上のチャペルまでを含む「農園型」のブルワリーは、日本でも類を見ない規模である。周辺の伊豆半島は、ユネスコ世界ジオパークにも認定されている。

ここから出荷されるラインナップには、沼津ラガー、ライジング・サン・ペールエール、駿河湾インペリアルIPA、修善寺ヘリテージ・ヘレス、そしてベアード氏が2017年に新語として提唱した「Japan Pale Ale(JPA)」の代表作わびさびジャパン・ペールエールがある。同ブルワリーの沼津ラガー、カントリーガール・かぼちゃエール、セゾン・さゆりの3本により、2010年のワールド・ビア・カップで同一ブルワリーが同一年に金賞3個を獲得した。小規模ブルワリーとしては異例の実績である。

Balance + Complexity = Character

ベアード氏が繰り返し口にする方程式がある。「Balance + Complexity = Character」。均衡と複雑さを同時に追い求めたときに、ビールに人格(character)が宿る、という彼の哲学である。強いIPAには柔らかさを、軽いラガーには陰影を、必ず対となる要素を仕込む。ラベル画の多くを手がけてきた画家・西田栄子氏の「Less is more」の美意識も、この方程式と静かに呼応している。

2025年11月、2000年の開業から続いた沼津フィッシュマーケット・タップルームは幕を下ろした。そして2026年1月、沼津市内の別の場所にビア・ステーション・ヌマヅが開業した。建物は代わっても、地元との関係は続いていく。バンコクに届く1本のベアードの向こう側には、沼津港の潮風と、修善寺の軟水と、四半世紀にわたり選び続けた四つの選択の重みが、同じだけ宿っている。


This article is intended solely to explore the brewing philosophy and cultural heritage of Baird Brewing Company and its craft beer brand, and does not aim to promote or encourage the consumption of alcohol. / บทความนี้จัดทำขึ้นเพื่อนำเสนอข้อมูลเกี่ยวกับปรัชญาการผลิตและมรดกทางวัฒนธรรมของ Baird Brewing Company และแบรนด์คราฟต์เบียร์เท่านั้น มิได้มีเจตนาเพื่อส่งเสริมหรือโฆษณาเครื่องดื่มแอลกอฮอล์ สำหรับผู้มีอายุ 20 ปีขึ้นไป โปรดดื่มอย่างรับผิดชอบ

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