その日のうちに終わらせない――新潟「宜有千萬」、酒粕から生まれた原酒が三年をかけて焼酎になるまで

その日のうちに終わらせない――新潟「宜有千萬」、酒粕から生まれた原酒が三年をかけて焼酎になるまで

連載「和酒の階段(The Sake Staircase)」第4話|第2段:焼酎②

日本酒を搾ったあと、槽(ふね)にはいつも白く柔らかいものが残る。酒粕である。これを原料に蒸留する焼酎を、粕取り焼酎と呼ぶ。粕取り焼酎には、搾りたての新鮮な酒粕をできるだけ早く蒸留にかけ、若いまま出荷する造りかたもある。新潟県南魚沼市の八海醸造は、そこで足を止めない。蒸留を終えたのちも三年以上、原酒を貯蔵し続ける。「八海山本格粕取り焼酎 宜有千萬(よろしくせんまんあるべし)」という一本の焼酎の話である。

前回の第3話では、鹿児島の濵田酒造「だいやめ」を通じて、日本酒と焼酎が同じ麹という起点から分かれていく様子を見た。この段にはもうひとつの道がある。日本酒を造る過程そのものから生まれる副産物を、もう一度、時間をかけて酒に変える道である。

八海醸造は1922年、南魚沼市の豪雪地帯で創業した。霊峰・八海山の麓に湧く「雷電様の清水」と呼ばれる超軟水を仕込みに用い、蔵は今も浩和蔵、第二浩和蔵、福澤原蒸留所という三つの拠点で役割を分けている。焼酎の製造免許を取得したのは1980年代のことだが、蔵はすぐに製品化を急がなかった。20年以上の研究を重ねたのち、2005年になってようやく専用の福澤原蒸留所を新設し、その3年後の2008年5月に宜有千萬が生まれた。

原料には、本醸造クラス以上の日本酒から生じる、新鮮な酒粕だけを使う。720ml一本に対しておよそ5キログラムが使われる。およそ40〜50℃で行う減圧蒸留により雑味を抑えながら、酒粕に残る吟醸香を丁寧に引き出す。ここまでは、他の粕取り焼酎とも重なる工程である。宜有千萬が違うのは、蒸留を終えたあとの三年である。同じ蔵が造る米焼酎「よろしく千萬あるべし」の貯蔵期間が2年であるのに対し、宜有千萬はそこにさらに一年を重ねる。急がず、若さの角を静かに削り落としていく時間である。

「宜有千萬」という名は、中国に古くから伝わる、限りなく多くの福が得られるようにという意味の吉語にちなむという。読みは「よろしくせんまんあるべし」。同じ読みを持つ米焼酎「よろしく千萬あるべし」とは、表記(ひらがなの有無)で区別されている。

こうした設計を持つ宜有千萬は、国内外の品評会でも評価を重ねてきた。東京ウイスキー&スピリッツコンペティションでは、2021年に金賞を、2022年に最高金賞を、2023年に金賞を受賞し、3年連続で金賞以上という基準を満たして殿堂入りを果たした。フランスのクラ・マスターでも、2022年にプラチナ賞と審査員賞を受けている。

焼酎という段には、麹を起点として蒸留へ向かう道が何本もある。日本酒造りで麹による糖化と酵母による発酵を経て生まれた酒粕は、米の記憶のようなものだ。宜有千萬は、その記憶を蒸留によってもう一度取り出し、三年という時間を重ねて仕立て直す一本である。

こうした和酒の造り手がバンコクに集うのが、2026年8月28日から30日まで、QSNCC(クイーン・シリキット国際会議場)で開かれる乾杯タイランド2026である。日本酒から焼酎、梅酒、クラフトジンまでの造り手が一堂に会するこのイベントに、八海醸造も参加蔵のひとつとして名を連ねている。

宜有千萬の背景にある麹と発酵の関係を体験を通じて捉え直すならKOUJI ALCHEMIST by salon du japonisant、蔵元の物語をゆっくり辿るならSalon du Japonisant、プロの視点による品揃えと知識に触れるなら伝統的な酒販店のNadaya Saketenという選択肢がある。

開幕まで、あと49日。次回も第2段。焼酎の階段を、もう一段登る。


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