Bruno Paillard
同じ設計、異なる時間──ブルーノ・パイヤール「Cuvée 72」が72カ月を名に冠した理由
Englishภาษาไทย日本語 シャンパーニュの違いは、ブドウ品種や畑、収穫年から語られることが多い。では、それらの条件をできるだけそろえ、熟成期間を変えたら、何が見えてくるのか。 メゾン・ブルーノ・パイヤールの「Cuvée 72」は、その問いを形にしたシャンパーニュである。出発点にあるのは、メゾンの基準となる「Première Cuvée Extra-Brut」。ピノ・ノワール45%、シャルドネ33%、ピノ・ムニエ22%という構成を共有し、どちらも複数年のワインを組み合わせるマルチヴィンテージとして造られる。澱引き後の補糖にあたるドサージュを抑えたエクストラ・ブリュットであることも共通する。 大きく異なるのは、澱引き後にセラーで熟成させる期間である。 「72」は、36カ月と36カ月の合計である シャンパーニュは瓶内で二次発酵を行い、その働きを終えた酵母とともに熟成する。この期間を「澱の上での熟成」という。その後、瓶口に集めた澱を取り除く工程を澱引きという。 Première Cuvée Extra-Brutは、澱の上で3年間熟成した後、澱引きから出荷まで最低6カ月の熟成を経る。一方、Cuvée 72は、澱の上で36カ月、さらに澱引き後も最低36カ月をセラーで過ごす。36カ月にさらに36カ月を重ねた、最低72カ月。その工程が、そのまま名称になった。 したがって「72」はヴィンテージでも商品番号でもない。メゾンが、どれだけの時間を経て世に送り出すかを示す数字である。 変えたのは、主に澱引き後の時間 Cuvée 72には、直近の収穫年のワインに加え、過去の収穫から保管してきたリザーヴワインを次のブレンドへ受け継ぐ仕組みが用いられる。その起点は1985年である。30種類を超えるワインを組み合わせ、その一部は、最初の発酵を木樽で行ったものである。こうした基本設計はPremière Cuvée Extra-Brutの延長線上にある。 しかし、澱引き後の熟成期間は最低6カ月から最低36カ月へ延びる。品種構成を変えたり、甘みを強めたりして違いをつくるのではなく、時間を主要な変数とするのである。 メゾンは、澱引き後の熟成によって、果実を中心とした香りが次第に変化していくと説明している。ここで時間は、完成後に付け足されるものではない。香りや質感がどの段階に達したときに送り出すかを決める、製造設計の一部である。 二つのキュヴェを上下関係に置かない この設計が示すのは、熟成期間が長ければ長いほど優れている、という単純な序列ではない。 Première Cuvée Extra-Brutは、ブルーノ・パイヤールの基準となるスタイルを、澱引き後最低6カ月を経た段階で示す。Cuvée 72は、その延長線上で、澱引き後にも最低36カ月を重ねた段階を示す。同じ考え方から生まれた二つのキュヴェは、優劣ではなく、異なる熟成段階を示している。 そのため、Cuvée 72を理解する手がかりは、希少性や評価点だけではない。「何が入っているか」に加えて、「どの工程の後に、どれだけ待ったか」を見る必要がある。 澱引き日をラベルに残す理由 ブルーノ・パイヤールは1980年代から、各ボトルの裏ラベルに澱引き日を記してきた。澱引きは単なる作業日ではなく、酵母とともに熟成する期間が終わり、別の変化が始まる境目だからである。 収穫年だけでは、マルチヴィンテージの熟成履歴を十分に説明できない。いつ澱引きされ、そこからどのくらいセラーで休んだのか。その情報があれば、ラベルは銘柄名を示すだけのものから、製造と熟成の履歴を伝えるものへと変わる。 バンコクで伝えられるのは、数字の背景である バンコクのレストランやホテルがシャンパーニュの違いを説明するとき、評価点だけに頼ると、説明は順位づけに偏りやすい。Cuvée 72には、別の説明の入口がある。 配合比もマルチヴィンテージという考え方も同じで、いずれもエクストラ・ブリュットである。それでも、澱引き後の時間が違えば、出荷時点での香りや質感の表れ方は変わる。こうした共通点と相違点をたどれば、「72」という数字を、長さの誇示ではなく工程の記録として伝えられる。 Cuvée 72が示しているのは、シャンパーニュの個性を決める要素が、畑や品種だけではないということである。いつ澱を取り除き、その後どれだけ待つのか。時間もまた、造り手が選び取る条件の一つなのである。 関連記事・商品情報 商品情報:BRUNO PAILLARD Cuvée 72 M.V. 関連記事:1台のジャガーから始まったシャンパーニュ――ブルーノ・パイヤール「N.P.U. 2009」 This article is intended solely to explore the winemaking […]
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