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辛口を一つの数字にしない|平和酒造「カラクチキッド」を読む二つの精米歩合

二つの米粒で麹米50%と掛米55%を表したKANPAI Makers’ Choices No.04

KANPAI Makers’ Choices No.04

日本酒の「辛口」は、分かりやすそうで、実は一つの数字だけでは決まらない。

ラベルや商品説明では、日本酒度が目安として使われる。数値がプラス側になるほど、一般には辛口の目安とされる指標である。しかし、酒類総合研究所の解説によれば、人が感じる甘口と辛口は、酒に残る糖分と酸度のバランスでおおむね説明され、香りや口当たりにも左右される。国税庁の成分解説でも、日本酒度は比重をもとにした指標とされ、酸度やアミノ酸度は別の役割を持つ。

This illustration supplements the product information and is not a photograph of the actual product. Details such as the bottle’s shape, colour and label may differ from the actual product. This page is provided for informational purposes only and is not intended to encourage the purchase or consumption of alcoholic beverages.

和歌山県海南市の平和酒造が造る「紀土 純米吟醸 カラクチキッド」は、その名に「カラクチ」を掲げる。けれど、この酒の設計をたどると、日本酒度とは別の数字の組み合わせが見えてくる。

麹米は精米歩合50%、掛米は55%。同じ仕込みに入る米を、一律には磨いていない。

二つの数字から何が分かり、どこから先は公開情報だけでは分からないのだろうか。

日本酒度は、答えではなく手がかりである

日本酒度は、甘さそのものを直接測る数値ではない。酒の比重を示し、水より軽いほどプラス側になる。一般には、酒に溶けている糖などの成分が少なく、比重が軽いほど数値がプラス側になるため、辛口の目安として使われてきた。

ただ、同じ糖分量でも、酸度が高ければ甘味は弱く感じられるという。反対に、酸が少ない吟醸酒では、分析値から想定するより甘く感じられる場合がある。つまり、日本酒度は重要な手がかりではあるが、感覚の全体を代弁する数字ではない。

だから「カラクチキッド」を読むときも、「辛口」の目安と、精米歩合という製造情報を同列の指標として扱うことはできない。本品では、麹米は50%、掛米は55%と、異なる精米歩合が記されている。

同じ「米」でも、仕事は二つに分かれる

日本酒造りでは、米がすべて同じ働きをするわけではない。

麹米は、蒸した米に麹菌を繁殖させたものである。麹がつくる酵素は、米のでんぷんを酵母が利用できる糖へ分解する。これを糖化という。一方の掛米は、蒸してもろみに加える米であり、麹の酵素によって溶かされ、発酵の材料になる。

一方は糖化を支え、もう一方は麹の酵素で溶かされて発酵の材料になる。同じ「米」であっても、麹米と掛米では仕込みの中で受け持つ仕事が異なる。

しかも、日本酒ではこの二つの仕事が順番に終わるわけではない。同じもろみの中で、麹の酵素がでんぷんを糖へ変え、その糖を酵母がアルコールへ変える動きが並行する。糖化と発酵を同時に進める「並行複発酵」である。麹米と掛米は別々の役割を持ちながら、一つのもろみの中では互いに切り離せない。

ここで確認できるのは、麹米の精米歩合が50%、掛米の精米歩合が55%と、二つの原料区分についてそれぞれ異なる精米歩合が記載されていることだ。

精米歩合は、玄米を削った後に残る割合を示す。したがって、麹米用の米は玄米重量の50%が残るように、掛米用の米は55%が残るように精米されている。わずか5パーセントポイントの差に見えるが、公開されている製造情報からは、二つの原料区分を同じ数値で扱っていないことが読み取れる。

5パーセントポイントの差で、分かることと分からないこと

精米歩合は、数字が小さいほど無条件に優れているという順位表ではない。米の外側をどこまで取り除くかを示す加工の情報であり、どのような酒質を目指すかによって選ばれる。

本品について確認できるのは、麹米と掛米が用途ごとに区分され、それぞれ精米歩合50%と55%に精米されていることだ。一方、なぜこの5パーセントポイントの差を選んだのか、その理由を蔵は公開していない。役割の違いがこの差の直接の理由であるとは言い切れず、この差が本品の辛口酒質にどう関与しているかも、公開資料だけでは分からない。

数字の意味と、数字を選んだ理由は別である。前者は説明できても、後者を想像で埋めれば、その記述は製造情報の紹介から物語の創作へ変わってしまう。分かる範囲を正確に示し、分からない部分をそのまま残すことも、造り手の仕事に向き合う方法の一つである。

「カラクチ」を工程へ戻して読む

平和酒造は1928年創業で、公式サイトには「酒は生き物、人は掛け橋」とある。同社は公式サイトのストーリーで、農家、流通に携わる人々、蔵人など、製品に関わる人々の背景に思いを向ける姿勢を示している。

その言葉を手がかりに、「辛口」を完成した酒の印象を表す語としてだけ捉えず、そこに至る製造工程に立ち戻って読む。麹による糖化と酵母による発酵は並行して進み、感じられる甘辛には糖分、酸、香り、口当たりが関わる。名称は短いが、そこへ至る工程は一つではない。

「カラクチキッド」という名は、酒質の方向を分かりやすい一語へ圧縮している。しかし、公開されている数字を並べても、設計のすべてが分かるわけではない。どの数字が何を示し、どこから先が未公開なのか。そこを区別してこそ、造りの輪郭が見えてくる。

No.04が記録する、分けるという選択

No.01では、七賢「白心」について、米を精米歩合27%まで磨き、氷点下5度で一年待つという選択を記録した。No.02では、羽根屋「煌火」について、造る季節を広げながら、中汲みで使う部分を絞るという選択を記録した。No.03では、白金酒造「白金乃露」について、芋の状態を一本ずつ見分け、二次仕込みへ持ち込まない部分を決めるという選択を記録した。

No.04の「紀土 純米吟醸 カラクチキッド」で記録するのは、「辛口」という一語と、その手前にある複数の工程である。麹米50%、掛米55%。二つの数字は優劣を示す順位ではなく、それぞれの原料区分に対応する製造情報である。

辛口という知覚には、糖分や酸、香り、口当たりなどが関わる。一方、麹米50%、掛米55%という表示は、原料区分ごとの製造情報である。この差が本品の辛口酒質にどう関与するかは、公開情報からは判断できない。

一つの言葉と二つの数字を、公開情報では確認できない因果関係で結ばない。分かることと分からないことを分けて残す。それもまた、造り手の選択を記録するための姿勢である。


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