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気候が変わるなか、日本酒の「産地」は何を指すのか

青空と山並みを背景にした水田の水彩画

バンコクのレストランで日本酒の産地を説明するとき、酒蔵の所在地は一つの手がかりになる。だが、米の栽培地、仕込み水の由来、醸造地は必ずしも重ならない。気温の変化は、米作りと酒造りの双方に異なる影響を及ぼす。

暑さは、田んぼと仕込みの両方に関わる

酒米が実る時期の気温は、米の性質に関わる。酒類総合研究所は、2002年から2019年に収穫された酒米のデータを分析し、本州産の酒造好適米(酒造りに適した米)では、出穂後(稲に穂が出た後)の最高気温が高いほど、蒸した米が酵素で溶けにくい傾向があると報告した。米の溶け方は、発酵中の米から糖ができる過程にも関わる。暑さは米の品質だけでなく、蔵での扱い方にも影響しうるのである。

蔵の仕事にも気温は関わる。岐阜県中津川市で酒を造ってきた三千櫻酒造は、2020年に北海道東川町へ本拠地を移した。気候変動適応情報プラットフォームの取材で、蔵元は、気温が上がって蒸し米を仕込みに適した温度まで冷ます作業が難しくなっていたと説明している。同時に、古い蔵の老朽化も移転の理由だった。温暖化だけで移転を決めたわけではない。

東川町では、町が酒蔵の建物を用意し、三千櫻酒造が運営を担う。蔵元によれば、中津川で手間のかかっていた蒸し米を冷ます作業は、移転後、外気を利用して行いやすくなった。一方で、使う水や米も変わった。移転は単に蔵を涼しい場所へ運ぶことではなく、酒造りの条件を組み直す判断だった。

北海道の酒米は、長い育種の成果でもある

北海道では「吟風」「彗星」「きたしずく」など、道内の条件に合わせて育成された酒米品種が使われている。北海道庁によると、道内の酒蔵が使う酒米に占める道産米の割合は、1999年の9.3%から2023年には81.3%になった。これは道産酒米の利用が広がったことを示す数字だが、その変化を気温上昇だけの結果とは読めない。品種開発や栽培技術の蓄積、酒蔵による道産米の選択なども重なっている。

三千櫻酒造も、東川町産の「彗星」や「きたしずく」を使った酒造りに取り組んだ。新しい土地の米を使えば、以前と同じ銘柄でも原料の条件は変わる。反対に、蔵が北海道にあっても、すべての酒が地元の米だけで造られるとは限らない。「北海道の酒」という表現だけでは、米と醸造の場所を言い表せない。

米の産地と蔵の所在地を分けて読む

Bacchus Globalが紹介する酒にも、この違いが見える。「楯野川 純米大吟醸 極限」は、山形県の楯の川酒造が兵庫県産の山田錦を使って醸す。一方、福岡県糸島市の白糸酒造が造る「田中六五」は、地元・糸島産の山田錦を使う。同じ山田錦でも、米が育つ場所と蔵との距離は異なる。

地元の米を重視する蔵もある。秋田県の新政酒造は、秋田県産米だけで醸す方針を掲げる。山梨県で「七賢」を醸す山梨銘醸は、地元農家と「夢山水」などの酒米を育てる。「七賢 甲斐駒」には、山梨県産の「夢山水」と甲斐駒ヶ岳の伏流水が用いられている。山形県の高木酒造は、地元で栽培する酒米「酒未来」を開発し、Bacchus Globalが扱う「十四代 ブラックラベル」に使う。一方、同じ「十四代」ブランドの「ゴールドラベル」には兵庫県吉川産の山田錦を使う。ブランド名だけでは米の産地を判断できない。

「純米大吟醸」「純米酒」という区分も、米の産地を示すものではない。原料や精米歩合、造り方に関する区分である。テロワールとは、もともとワインの世界で、土地の気候や土壌と酒の個性を結び付ける概念だ。日本酒では産地だけでなく、精米の方法、麹や酵母の選択、仕込み温度など、造り手の判断も味に関わる。

日本酒の「産地」を語るなら、米の栽培地、仕込み水の由来、醸造地を分けて考えたい。三千櫻酒造の例では、移転によって水や米、気温の組み合わせが変わった。バンコクで仕入れる際も、蔵の所在地だけでなく、米の栽培地と水の由来を確かめる。地名が示すものを一つずつたどれば、「産地」の説明は具体的になる。


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