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梅干し農家が梅酒を造った。みなべ町の「啓」と、100年を超えるウイスキー蔵が交わる一本

梅干し農家が梅酒を造った。みなべ町の「啓」と、100年を超えるウイスキー蔵が交わる一本

梅干し農家が梅酒を造った。みなべ町の「啓」と、100年を超えるウイスキー蔵が交わる一本

梅を知り尽くしていても、酒は造れなかった

和歌山県日高郡みなべ町は、日本有数の梅の産地であり、2015年にはFAO(国連食糧農業機関)の世界農業遺産にも認定された土地である。紀州本庄うめよしは、この町で1971年から梅干しの製造を続けてきた農家兼加工業者である。

梅を育て、梅干しを漬ける技術は50年以上にわたって蓄積されてきた。ただ、梅酒を造ることはできなかった。日本の酒税法では、酒類の製造には免許が必要であり、梅農家がその免許を取得する仕組みは長い間存在しなかった。

特区制度が道を開いた

転機は2008年に訪れた。みなべ町が国の構造改革特区として「梅酒特区」の認定を受け、小規模な製造・販売が許可されるようになった。紀州本庄うめよしは、この特区制度のもとで最初にリキュール製造免許を取得した事業者である。

梅を育て、梅干しを漬け、そして梅酒を醸す。3つの工程を一つの場所で完結させる体制が、ここで整った。

老舗の梅農家が選んだ相手

「啓(ひらく)」は2020年6月に発売された、ウイスキーベースの梅酒である。ベースに使われているのは、兵庫県明石市の江井ヶ嶋酒造が醸す「あかし」。江井ヶ嶋酒造は1919年にウイスキー製造免許を取得しており、日本のウイスキー黎明期からウイスキー造りを続けてきた蔵である。

半世紀超の梅農家と、100年を超える歴史を持つウイスキー蔵。この二つの歴史が、一本のなかで交差している。

樹上完熟の南高梅を、ウイスキーに漬ける

原料は自社農園で栽培された南高梅である。流通効率を優先した青梅ではなく、樹の上で黄色く完熟するまで待ってから収穫されている。この完熟梅を「あかし」のウイスキーに少量の氷砂糖とともに漬け込み、水を一切加えず仕上げている。

アルコール度数は30%。一般的な梅酒が8%から15%程度であることを考えると、その設計思想の違いは明確である。甘さを前面に出す梅酒とは異なり、ウイスキーの樽香と梅の果実味が重なる構成になっている。無濾過で仕上げられているため、果実由来の成分がそのまま残されている。

受賞歴という権威ではなく、製法と素材で語る

「啓」単独での国際コンクール受賞歴は、2026年4月時点で確認できていない。ただ、紀州本庄うめよしは別銘柄で「Kura Master」梅酒コンクールの金賞を2回獲得しており、梅酒造りの技術そのものは国際的な場でも評価されている。

この一本が持つ個性は、スコアや受賞歴ではなく、素材の出自と製法の設計に宿っている。世界農業遺産の地で樹上完熟させた南高梅と、日本のウイスキー黎明期から続く蔵のウイスキー。その組み合わせは、梅酒というカテゴリーのなかで独自の位置を占めている。

バンコクのダイニングシーンでも、梅酒への関心が広がりつつある。30%という度数設計は、カクテルのベーススピリッツとしての汎用性を持たせている。甘さを抑えた構成には、タイ料理のスパイスやハーブとの組み合わせに探求の余地がある。

梅干し農家が酒造りに踏み出したことで生まれた一本。その名前「啓(ひらく)」は、文字どおり、新しい扉を開いた造り手の決断を映している。


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