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日本酒は1年で劣化するのか|−5℃保管と熟成を考える

−5℃の冷蔵室のそばで保冷箱を受け渡す作業員を描いた現代風浮世絵

瓶詰めの日付だけでは分からない、日本酒の香りや味と保管温度の関係。

「瓶詰めから1年以上たっている。この日本酒は、もう古いのではないか」。日付を見て、そう感じる人は少なくないだろう。けれども、日本酒の状態は経過した年数だけでは判断できない。同じ1年でも、どの温度で保管してきたかによって、瓶の中で進む変化が違うからである。

This illustration supplements the product information and is not a photograph of the actual product. Details such as the bottle’s shape, colour and label may differ from the actual product. This page is provided for informational purposes only and is not intended to encourage the purchase or consumption of alcoholic beverages.

Bacchus Globalでは、十四代などの日本酒を蔵元からレストランまで−5℃で管理している。目的は、出荷時の香りや味をできるだけ保つことだ。この低温管理には、どのような意味があるのだろうか。未開栓で、光を避けて保管された日本酒について、保管と熟成の関係をたどってみたい。

栓をした後も、成分は少しずつ変わる

日本酒には、水とアルコールのほかに、糖、アミノ酸、酸、香りの成分などが含まれる。瓶詰めした後も、これらに関わる反応は続いている。

例えば、バナナに似た香りに関わる「酢酸イソアミル」は、エステルと呼ばれる成分の一種である。貯蔵中には、エステルができる反応と、水と反応して分解する「加水分解」の両方が進む。成分ごとの増減によって、香りの構成が変わっていく。

糖とアミノ酸が関わる「メイラード反応」もある。日本酒の色が黄褐色になったり、熟成に伴う香りが生まれたりする要因の一つだ。加熱調理で知られる反応だが、貯蔵中の酒でも時間をかけて進む。

低温にすると、こうした多くの反応は遅くなる。−5℃保管は、瓶の中の変化をゆっくりにするための管理なのである。

生酒では、酵素の働きも考える

生酒は、火入れという加熱処理をしていない日本酒である。残った酵素が働き続けることがあり、貯蔵中の糖やアミノ酸の量にも影響する。

東京都立産業技術研究センターは、生酒と火入れ酒の計25製品を、−5℃・+10℃・+25℃で6か月・9か月保管し、成分の変化を調べた。光を遮り、栓を開けずに行った試験で、生酒では、−5℃で保管した場合、香りや味に関わる成分の変化が小さかった。

一方、吟醸酒3種類を調べた別の研究では、生酒を+5℃で9か月保管したところ、香りの成分が減少した。一部の試料では、保管中に生じる特有のにおいも確認された。冷蔵していても、生酒の変化が止まるわけではない。

火入れした酒は、生酒と分けて見る

火入れは、熱を加えて微生物や酵素の働きを抑える処理である。本記事では、1回火入れと2回火入れの両方を「火入れ酒」と呼ぶ。火入れ後も成分の反応は続くが、生酒とは変化の仕方が異なる。

一般に、日本酒は貯蔵前と瓶詰め時(出荷前)の計2回火入れされる。1回火入れには、貯蔵前だけ加熱する「生詰酒」と、加熱せずに貯蔵して瓶詰め時だけ加熱する「生貯蔵酒」などがある。どちらも、火入れを一度もしていない生酒とは異なる。

先の25製品の試験では、火入れ酒は、−5℃と+10℃で保管した場合、香りや味に関わる成分の変化が小さかった。酒類総合研究所などによる別の研究では、火入れ酒7点を最長6か月保管し、人が香りや味を評価する官能評価を行った。その結果、0℃保管と+15℃保管の間に、統計的に明確な差は認められなかった。

ただし、これら2つの研究資料には、火入れ酒の各試料が何回火入れされたかが記されていない。1回火入れと2回火入れを比べた試験ではないため、回数によって保存性に違いがあるかどうかは判断できない。

この+15℃の結果を、生酒にも当てはめることはできない。紹介した研究の試験期間は最長9か月で、1年以上の変化を直接測定したものでもない。また、−5℃・+5℃・+15℃の結果は別々の研究によるもので、同じ酒を3つの温度で直接比較したものではない。

氷点下で3年、5年をかける造り手

長期の低温熟成を製品の設計に取り入れる酒蔵もある。

新潟県の加茂錦酒造が造ったJAL国際線向けの限定酒は、2023年の機内メニューでは、−5℃で3年間熟成した酒として紹介された。山形県の出羽桜酒造の「雪漫々 氷点下五年熟成酒」は5年をかけて熟成する。貯蔵庫「酒眠蔵」は、真夏でも−5℃に保たれている。

福井県で「梵」を醸す加藤吉平商店の「梵・夢は正夢」には、−10℃で約5年間熟成した純米大吟醸が使われている。こちらは−5℃とは異なる条件だが、温度と時間を組み合わせて熟成を設計する造り手の仕事が見える。

低温熟成した酒に使われる「丸みが出る」という表現は、香りや味、刺激が全体として調和して感じられるという評価を指す。色が濃くなったり、強い熟成香が生じたりすることだけが熟成ではない。ただし、低温で化学反応が完全に止まるわけではなく、すべての酒が同じように丸くなるとも限らない。

日付と一緒に、その間の温度を見る

日本酒には、一律に「1年を超えたら品質が損なわれる」という境目はない。蔵元が賞味期限や保存方法を示している場合は、その表示が基本となる。

今、冷えていることと、ずっと低温に保たれてきたことは違う。輸送中や倉庫で高温にさらされて成分が変わった場合、後から冷やしても元の状態には戻せない。蔵元から、輸送・倉庫での保管・レストランへの配送に至るまで低温を保つ仕組みが、コールドチェーンである。Bacchus Globalの−5℃管理も、この低温流通を途切れさせないための取り組みだ。

瓶詰めから1年が経過したという事実も、保管温度とあわせて見ることで意味が変わる。香りや味の変化を抑えながら時間を重ねる酒もあれば、造り手が数年の熟成を経て出荷する酒もある。日本酒の状態を考えるには、年数に加えて、その期間、どのような条件で保管されてきたかを見る必要がある。


This article explains sake storage, temperature-related changes and maturation for educational purposes. It does not promote the purchase or consumption of alcohol. Intended for readers aged 20 and over.

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