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地御前牡蠣の殻がジンに入る日
桜尾 ジン リミテッドと瀬戸内の論理

広島県廿日市市の海岸線に、地御前(じごぜん)という地名がある。宮島の対岸に位置する小さな港町で、複雑な潮流が交わる広島湾の海域では、プランクトンが豊富に育ち、牡蠣の養殖に適した環境が古くから整っている。毎年この海で育った牡蠣の殻の一部は、内陸の蒸留所へ運ばれる。ジンのボタニカルとして使うためだ。
植物でも果実でもない素材が、ジンの風味設計に意図的に組み込まれている。桜尾蒸留所が造る「桜尾 ジン リミテッド」は、17種すべてのボタニカルを広島県内から調達している。地御前の牡蠣殻は、その一つとして、瀬戸内の海を液体に持ち込む素材だ。なぜ牡蠣殻がジンに入るのか。その問いを追うと、この蒸留所が土地に対して何を考えているかが少し見えてくる。
ボタニカルとしての牡蠣殻が担う仕事
ジンのボタニカルは大きく二つの働きをする。香りを加えることと、味わいの骨格を作ることだ。
柑橘の皮は前者を担う。蒸留液に爽やかなアロマを移す素材だ。ジュニパーベリーは後者に近い。ジン本来の針葉樹的な芯を形成する中核素材だ。では牡蠣殻は何をするのか。
地御前の牡蠣殻は、海由来のミネラルを豊富に含む素材だ。蒸留所はこれをボタニカルとして組み込むことで、「海のミネラル感」と形容される独特の質感を設計している。微かな塩味、いわゆるブライニーさ(briny)が、柑橘やジュニパーとは別の層として重なり、風味に立体感を与える。香りでも辛みでもなく、質感として味わいに厚みを添える素材。それが牡蠣殻の役割だ。
海と山の二つの要素が重なるとき
桜尾 ジン リミテッドには、牡蠣殻と同様に珍しいボタニカルがもう一つある。本わさびだ。こちらも同じ廿日市市から調達される。
わさびは鋭いスパイス感をもたらす。柑橘の爽やかさが引いた中盤に、わさびとジュニパーが前に出て、骨格にスパイシーな緊張感を加える。
牡蠣殻のミネラル感(海)と、わさびのスパイス感(山)。この対照的な二つが、桜の花のフローラルな香りや川根柚子の柑橘香と重なる。「シトラス主体のクラフトジン」という文脈では説明しきれない、複層的な構造がここにある。
インターナショナル・ワイン&スピリッツ・チャレンジ(IWSC)は2018年、桜尾 ジン リミテッドに「GOLD OUTSTANDING」を授与した。同年のジン部門でこの最高賞を獲得したのは、世界で8銘柄のみだった。
ジュニパーまで広島で育てる
もう一点、桜尾 ジン リミテッドの構成で注目に値することがある。ジュニパーベリーが広島産であることだ。
ジンの定義はジュニパーベリーを主たる香味とすることにある。しかし世界的に見て、この素材は東欧や地中海沿岸からの輸入品が大半を占める。国産クラフトジンの多くも、欧州産ジュニパーを使用している。
桜尾蒸留所はこのジュニパーを、広島で7年かけて栽培し、樹高1メートルほどの木から手摘みで収穫した。17種のボタニカルがすべて広島産、という事実は、このジュニパーの存在があってはじめて成立している。
「土地の素材だけで作る」という判断は、効率からすれば合理的ではない。それでも蒸留所がその選択をしたのは、素材の産地を一つの土地に集約することに、スペックを超えた何かがあると考えているからだろう。桜尾蒸留所の運営会社、株式会社サクラオブルワリーアンドディスティラリーの前身は、1918年に創業した中国醸造株式会社だ。日本酒、焼酎、ウイスキーを100年にわたって手がけてきた蔵が、創業100周年の節目にジンを選んだ。産地とは情報ではなく、液体が持つ物語の根拠だ。
バンコクへの接続
バンコクのカクテルバーでも、ジャパニーズ・クラフトジンへの関心は徐々に高まりつつある。先行する銘柄を通じて、和ボタニカルの存在はバーテンダーの間でも知られるようになってきた。ただ、「なぜ日本のジンなのか」という問いに具体的に答える言葉は、まだ整備の途中にある。
地御前の牡蠣殻と廿日市のわさびが作る「海と山の二極」という構造は、その問いへの一つの答えになりうる。シトラス系の爽やかさに加え、ミネラルとスパイスが作る複層的な構造は、タイ料理が持つ複雑な風味の重なりと接点を持つ。魚醤の塩気、青唐辛子の鋭い辛み、ライムの酸味。これらの要素は、牡蠣殻のミネラル感やわさびのスパイス感と、構造的に近い関係にある。広島の海が育てた素材が、バンコクのバーの現場でどのような文脈を得ていくか。その文脈は、これから形づくられていくものだ。
This article is intended solely to explore the distillation techniques and cultural heritage of SAKURAO Brewery and Distillery and the SAKURAO GIN LIMITED brand, and does not aim to promote or encourage the consumption of alcohol. / บทความนี้จัดทำขึ้นเพื่อนำเสนอข้อมูลเกี่ยวกับเทคนิคการกลั่นและมรดกทางวัฒนธรรมของ SAKURAO Brewery and Distillery และแบรนด์ SAKURAO GIN LIMITED เท่านั้น มิได้มีเจตนาเพื่อส่งเสริมหรือโฆษณาเครื่องดื่มแอลกอฮอล์ สำหรับผู้มีอายุ 20 ปีขึ้นไป โปรดดื่มอย่างรับผิดชอบ
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