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磨くのは、米だけではない――白金酒造「白金乃露」の磨き芋


KANPAI Makers’ Choices No.03
焼酎造りには、「一に麹、二に酛、三に造り」という言葉がある。鹿児島県姶良市の白金酒造も、公式サイトでこの言葉を掲げている。麹、発酵、そして蒸留。焼酎の個性を説明するとき、話はたいていこの三つから始まる。
しかし、白金酒造の選択をたどると、主原料である芋が二次仕込みに入る前の、目立ちにくい工程に行き着く。畑から届いたさつま芋を洗い、皮をむく。そのうえで、人が一本ずつ見て、ヘタや傷んだ箇所を取り除く。蔵は、この状態まで整えた芋を「磨き芋」と呼ぶ。
「磨く」と聞けば、日本酒の精米を思い浮かべる人も多いだろう。けれど、磨き芋は米のように一定の割合を削る作業ではない。一本ごとに状態の異なる農産物を、仕込みに進められる状態へ整える判断である。
では、なぜ芋を二次もろみに加える前に、そこまで手をかけるのか。
「磨き芋」は、芋を美しく見せる言葉ではない
白金酒造の説明によれば、仕込みの時期には、毎朝5時過ぎに新鮮な生芋が畑から届く。土の中で育つさつま芋には泥がつき、大きさ、形、傷の位置も一本ずつ異なる。自然の作物だから、最初から均一ではない。
洗浄と皮むきのあと、ヘタや傷んだ箇所を人の手で除く。これらは、苦みの原因になるという。処理を終えた芋は、文字どおり磨いたように光る。その見た目から生まれた呼び名が「磨き芋」である。
ただし、目的は芋を美しく見せることではない。二次仕込みへ持ち込まない部分を、その前に取り除くことにある。白金酒造では、一部の特別な銘柄だけでなく、すべての焼酎に磨き芋を用いている。この点に、同蔵が原料処理を例外的な演出ではなく、日々の基準としていることが表れている。
精米歩合では表せない、もう一つの「磨く」
日本酒の精米は、数字で説明できる。たとえば精米歩合60%なら、玄米の外側を40%取り除き、60%を残したという意味になる。どれだけ残すかを先に決め、その割合がラベル上の設計情報にもなる。
一方、磨き芋には共通の削減率がない。ある芋ではヘタの周囲だけ、別の芋では傷んだ箇所も取り除く。どこまで手を入れるかは、目の前の一本によって変わる。米の精米が「割合をそろえる磨き」だとすれば、磨き芋は「状態を読み分ける磨き」である。
優劣の違いではない。原料の性質が違うから、そろえ方も異なる。粒の集まりである米には割合という尺度が合い、形も傷も異なる芋には個体ごとの判断が必要になる。同じ「磨く」という言葉の内側に、二つの品質設計がある。
足す前に、持ち込まないものを決める
酒造りの説明は、仕込みに何を使い、発酵や蒸留をどう進めるかに重心が置かれやすい。どの麹を選ぶのか。どの酵母を用い、発酵をどう管理するのか。どのように蒸留するのか。しかし磨き芋が示すのは、その反対側の設計である。芋を加える前に、何を仕込みへ持ち込まないかを決める。
日本酒造組合中央会の製造工程解説によれば、一般的なもろみ取りの本格焼酎では、米麹などに水と酵母を加えた一次もろみに、蒸した甘藷(さつま芋)などの主原料を加えて二次もろみを仕込む。発酵を終えたもろみは、単式蒸留機で蒸留される。磨き芋は、主原料である芋が二次もろみへ入る、その前段階の仕事である。
芋を仕込みへ進めれば、一本ずつの違いを見分けて扱うことは難しくなる。あとから、どの芋のどの箇所だったかを個別に確かめるのも難しい。だからこそ、個体として見分けられる段階で、人が確かめる。工程として考えると、手作業は昔らしさを示す飾りではなく、農産物のばらつきを二次仕込み前に受け止める役割を持つ。
一定の削減率だけでは表しきれないからといって、曖昧なのではない。割合だけでは拾えない差を、人が見て判断しているのである。磨き芋は、品質管理が発酵槽や蒸留器の中だけで行われるものではないと教えてくれる。
一世紀を超える銘柄を支える、毎回の判断
白金酒造は、明治2年(1869年)に川田醸造店として創業した。代表銘柄の「白金乃露」は、大正元年(1912年)から続くレギュラー銘柄である。現在タイで案内されている商品も、さつま芋と白麹を原料とする鹿児島の芋焼酎として位置づけられている。
一世紀を超える銘柄の歴史を語るとき、創業年や古い蔵は分かりやすい象徴になる。だが、歴史は年号だけでは続かない。毎朝届く芋を洗い、皮をむき、一本ずつ確かめる。しかも、その判断を特別品だけでなく、日常の銘柄にも繰り返す。伝統とは、過去に決めた手順を、現在の仕込みでも繰り返し実行することなのだろう。
白金乃露が記録する、仕込み前の選択
No.01の七賢「白心」は、米を精米歩合27%まで磨き、氷点下5度で一年待つという選択だった。No.02の羽根屋「煌火」は、四季醸造で造る時期を広げながら、中汲みで使う部分を絞る選択だった。
No.03の「白金乃露」が示すのは、割合や温度だけでは表しきれない、一本ずつの判断である。洗浄と皮むきのあとに、人が見て、触れて、取り除く。芋が米麹を含む一次もろみに加わる前、蒸留器に届くよりも前の選択だ。
原材料欄に「さつま芋」と書くだけでは、この違いまでは見えない。何を原料にしたかだけでなく、どの状態まで整えた原料を、次の工程へ渡したのか。白金酒造の「磨き芋」という言葉は、仕込み前に重ねられた判断を、短く記録している。
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