Blog
仕込み水という沈黙の主役
灘・伏見・広島、そしてバンコクで「水」を読む

一合の日本酒のうち、およそ八割を占めるのは米ではない。水である。蔵のなかで消費される水の総量は、最終的に瓶に入る量のおよそ五十倍にのぼると言われる。米を洗い、浸け、蒸し、麹を育て、もろみを仕込み、器を洗う。日本酒づくりは、最初から最後まで水との対話の連続である。にもかかわらず、杯を傾けるとき、私たちは米の話はしても、水の話をほとんどしない。今日はその沈黙の主役について、少しだけ紙幅を割いてみたい。
硬水と軟水、ひとつの数字が酒質を分ける
水の硬度は、カルシウムとマグネシウムの含有量で測られる。日本の基準では硬度100mg/L未満が軟水、100mg/L以上300mg/L未満が中硬水、それ以上が硬水である。
酵母という微生物は、カルシウム・マグネシウム・リン・亜鉛といったミネラルを栄養に活動する。硬水のもろみでは酵母が元気に働き、発酵は力強く、酒はきりっと辛口に仕上がる傾向がある。ミネラルの少ない軟水では発酵はゆっくり進み、時間をかけて甘みと旨みを引き出し、やわらかい酒が生まれる。同じ米、同じ酵母、同じ杜氏でも、水が違えば別の酒になる。日本酒における「テロワール」の正体は、多くの場合、水である。
灘の宮水、偶然に見つけられた硬水
兵庫県・灘の酒を語るとき、宮水(みやみず)という名前を避けることはできない。宮水とは、兵庫県西宮市の一帯で地下から湧き出す特別な井戸水のことで、灘の酒蔵が二百年近くにわたって仕込みに使い続けてきた、日本酒の世界でも名高い水の固有名詞である。
江戸時代、灘の酒造家・山邑太左衛門は、自らが灘の魚崎と西宮の両方に構えた蔵のうち、西宮の蔵で仕込んだ酒のほうが明らかに上質に仕上がることに気づいた。米も杜氏も仕込み方も同じ、違うのは水だけ。そこで試しに、西宮の井戸水を魚崎の蔵まで運ばせて仕込んでみたところ、西宮と同じ上質な酒ができあがった。水が答えだった。
宮水はカルシウムとリンを豊富に含み、酒を赤褐色に変え、香りを損なう鉄分が極端に少ない、稀有な水である。のちに科学が複数の伏流水の交差点であることを解明したが、蔵人たちは百年以上前に、舌と目と鼻だけでその価値を見抜いていた。キレのある辛口、いわゆる「男酒」の骨格は、この硬水から生まれている。
余談になるが、バンコクで弊社バッカスグローバルが2012年から営んでいる直営の酒屋「Nadaya Saketen」の屋号は、この灘に由来している。日本酒を扱う店が、日本酒の骨格を育てた土地の名を背負うのは、ささやかな敬意の示し方でもある。
京の伏見と、広島の超軟水が開いた吟醸革命
京都・伏見の水は中硬水だが、宮水に比べれば明らかに軟らかい。発酵はゆっくり進み、口当たりがやわらかく、甘みと旨みが前に出るふくよかな酒になる。「男酒の灘、女酒の伏見」という古い対比は、硬水と軟水の性格差を人格に喩えた言葉である。
さらに明治時代の広島では、三浦仙三郎が超軟水での腐造に苦しみ、低温長期発酵で安定を得る「軟水醸造法」を確立した。この技術こそ、のちの吟醸造りの礎である。米の雑味を抑え、華やかな吟醸香を引き出す大吟醸文化は、広島の軟水が蔵人に課した制約から生まれた。灘の「力」と広島の「繊細さ」は、水が育てた異なる美学である。
バンコクで「水」を読むということ、一杯のラーメンが教えてくれたこと
バンコクの午後、気温34℃の街中で日本酒に向き合うとき、その一本には宮水や伏見の水が溶けている。その水は、バンコクの飲食店で一般に使われているミネラルウォーターとも、市販の水とも、まったく別の性格を持っている。
近年、東京で高い評価を受けているあるラーメン店が、バンコクでの展開を見据えて現地の水をテストした際、店主が語っていた印象的な話がある。東京とまったく同じレシピ、同じ麺で試したところ、バンコクの水で茹でた麺が水を吸いすぎ、どんぶりに盛ったあとも麺がスープを吸い続け、気がつけばスープの量が通常よりも目に見えて少なくなっていたという。現地のミネラルウォーターの組成の違いが、麺の吸水挙動を静かに変えていたのである。
一杯のラーメンでさえ、そうなのである。日本酒に燗をつけるための湯や、ペアリングに添える「お冷や」の水を、何も考えずに選んでよいはずがない。レストランで日本酒ペアリングを組み立てるとき、ソムリエが最初に手を入れるべきは、グラスの温度ではなく、実は水かもしれない。ミネラルの少ない軟水系のミネラルウォーターを選ぶだけで、酒が本来持っていた水のキャラクターが、杯のなかに静かに戻ってくる。
一本の背後に、山と森がある
日本の蔵元たちの多くが、近年、水源の変化と向き合っている。山の保水力が落ち、伏流水の水位が下がり、井戸が枯れ、集中豪雨で水質が変わる。いくつかの蔵は、蔵の背後の森を買い上げ、水源林として守り始めている。酒は、山と森の下流で生まれている。
一杯の日本酒を手にしたとき、その水がどの山から降り、どの土を通り、どれだけの時間をかけて井戸にたどり着いたかを想像してみてほしい。日本酒を「米の酒」と呼ぶのは正しい。しかし「水の酒」と呼ぶのも、同じくらい正しい。次に一本開けるとき、ラベルの裏に蔵の住所を探してみてほしい。その町に降った雨が、いま杯のなかで光っている。
This article is intended solely to explore the role of water in Japanese sake brewing and the cultural heritage of regions such as Nada, Fushimi, and Hiroshima, and does not aim to promote or encourage the consumption of alcohol. / บทความนี้จัดทำขึ้นเพื่อนำเสนอข้อมูลเกี่ยวกับบทบาทของน้ำในการผลิตสาเกญี่ปุ่น และมรดกทางวัฒนธรรมของภูมิภาคต่างๆ เช่น Nada, Fushimi และ Hiroshima เท่านั้น มิได้มีเจตนาเพื่อส่งเสริมหรือโฆษณาเครื่องดื่มแอลกอฮอล์ สำหรับผู้มีอายุ 20 ปีขึ้นไป โปรดดื่มอย่างรับผิดชอบ
Related Articles
“貴醸酒とは何か|水の代わりに酒で仕込むと、なぜ甘くなるのか”
Discover the culture behind every bottle
We share brewery stories, tasting notes and the craft of koji & fermentation — for educational and cultural purposes only.
เราถ่ายทอดเรื่องราวจากผู้ผลิต บันทึกรสชาติ และศาสตร์แห่งโคจิและการหมัก — เพื่อการศึกษาและวัฒนธรรมเท่านั้น