霧島山系の湧水と、かめ壺の百年──株式会社霧島町蒸留所「明るい農村」

霧島山系の湧水と、かめ壺の百年──株式会社霧島町蒸留所「明るい農村」

サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション(SFWSC)。世界最大級のスピリッツ審査会のひとつで、毎年数十名の専門審査員がブラインド方式で審査し、点数をつけていく。2018年のShochu部門で、その最高評価であるDouble Gold(審査員全員一致の金賞)を受賞した一本がある。鹿児島県霧島市にある株式会社霧島町蒸留所の本格芋焼酎「明るい農村」だ。

明治44年(1911年)創業。霧島連山の南麓に位置するこの蔵は、すでに百年を超える歴史を刻んでいる。蔵名のとおり、すぐ目の前には農村の風景が広がる。鹿児島の黒い火山灰土壌、いわゆるシラス台地に、サツマイモ畑が続く。蔵元が掲げる哲学はいたって率直で、「品質の良い焼酎は、品質の良い土から生まれる」というものだ。

土から始まる設計思想

主原料は、鹿児島産の黄金千貫(こがねせんがん)。芋焼酎用として最も信頼を集める品種で、デンプン質と糖度のバランスに優れる。蔵はこの黄金千貫を中心に据え、米麹と合わせて仕込んでいく。

麹には黒麹と白麹の双方が使われている。黒麹は薩摩焼酎の伝統的な麹で、力強いコクと厚みのある余韻をもたらす。白麹はそこから派生した種類で、よりすっきりした輪郭を与える。両者をどのように組み合わせるかが、各蔵の設計思想を映す部分でもある。「明るい農村」は、その2種類の麹を併用しながら、芋本来の甘やかな香りと、土を思わせる骨格の両方を立ち上げていく。

仕込み水は、霧島山系の伏流水。火山岩由来のミネラルを含みながら、口当たりはやわらかい。発酵にも、最後の割り水にも、同じ水脈の水が使われている。

かめ壺と常圧蒸留が残すもの

仕込みには、地中に埋めた素焼きのかめ壺が使われる。ステンレスタンクと違い、かめは温度変化に対して緩衝材のように働く。微生物の活動はゆるやかになり、発酵は時間をかけて進む。

蒸留は常圧。減圧蒸留が軽快な味わいを引き出すのに対し、常圧蒸留は原料由来の香気成分を多く引き出す方式だ。芋の甘み、麹の香ばしさ、わずかな油分の旨み。それらが蒸留後の原酒のなかに、層となって残っていく。

百年の蔵にあって、蔵はISO9001に基づく品質マネジメントシステムの認証を取得している。土とかめ壺の世界に、近代的な品質保証の仕組みを重ねる。一見対照的なふたつが共存しているところに、この蔵らしさがある。

「明るい農村」という名前

ブランド名は、そのまま蔵元の信念を表している。霧島町蒸留所はNPO法人「日本で最も美しい村」連合のサポート企業として、農村の景観と文化を守る活動にも長く関わってきた。原料を育てる土地、その土地に暮らす人々、そしてそこから生まれる蒸留酒。三者を切り離さずに捉えようとする姿勢が、「明るい農村」という素朴な五文字に込められている。

2018年のSFWSCでのDouble Gold受賞は、その思想に対する国際的な評価のひとつだ。ブラインド審査で世界中のスピリッツと並べられたとき、霧島の土と水、そしてかめ壺によって積み上げられてきたものが、確かな輪郭をもって審査員に届いた。

霧島連山の湧水、シラス台地の黄金千貫、地中のかめ壺、そして常圧蒸留が引き出す芋の表情。それらの要素が一本の中で重なり合って生まれる厚みを、いま、バンコクの食卓でも、一杯の本格芋焼酎として静かに味わうことができる。


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