
「磨きすぎない」という選択──大分・中野酒造「ちえびじん」が世界の頂点に立つまで
日本酒には、長いあいだ信じられてきた常識がある。「米を磨けば磨くほど、良い酒になる」というものだ。米の表面を多く削り落として造った酒ほど高級とされ、雑味のない澄んだ味わいが評価されてきた。
ところが、その常識に静かに異を唱える酒がある。大分県杵築市の中野酒造(1874年創業)が醸す「ちえびじん 純米酒」だ。米をあまり磨かない、いわば飾らない造りの純米酒が、いま国際的な審査の舞台で高く評価され続けている。
出品1,738点の中から選ばれた、純米酒部門の最高賞
2026年、その評価を決定づける出来事があった。世界最大級の酒類審査会の一つ、IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)の日本酒部門での受賞である。
この年の出品数は1,738点だった。そのなかで各カテゴリーの最高賞「トロフィー」に選ばれたのは、わずか59点だった。ちえびじんは、純米酒部門の最高賞にあたるトロフィーを獲得した。前年の2025年にはSilver(銀賞)を受賞していたことを思えば、わずか一年での大きな躍進である。
純米酒とは、米と米麹、水だけで造る日本酒のことだ。醸造アルコールを加えない、もっとも素朴な造りの酒と言ってよい。その純米酒部門で最高賞に選ばれたという事実は、「飾らない造り」が国際的な審査員に届いたことを物語っている。
大吟醸を退けた、ある事件
実は、ちえびじんの躍進にはもう一つの伏線があった。2018年、パリで開かれた日本酒コンクール「Kura Master」での出来事だ。
このとき、650点を超える出品酒の中で最高賞「プレジデント賞」に輝いたのが、ちえびじんの純米酒だった。審査は、フランス人のソムリエや料理人によって、ブラインド、つまり銘柄を伏せた状態で行われた。米を多く磨いた華やかな大吟醸が居並ぶなかで、米をあまり磨かない純米酒が全体の頂点に立ったのは、このコンクールでは史上初のことだったという。
「磨けば磨くほど良い」という常識が、ここで静かに覆された。ちえびじんは、削ることで生まれる華やかさではなく、米そのものの旨味で勝負する造りを選んだ酒なのだ。
城下町、最後の酒蔵
この酒を生むのは、杵築の城下町に残る最後の酒蔵である。銘柄の名は、創業者の妻「智恵」に由来する。
蔵に転機をもたらしたのは、6代目の中野淳之氏だ。彼は従来の杜氏制度、つまり酒造りを外部の杜氏に任せる仕組みをあらため、自ら造りの責任者となった。仕込みには地下200メートルあまりから汲み上げる軟水「御霊水」を使い、発酵中の蔵内にクラシック音楽を流すという独自の方法も取り入れている。
味づくりの哲学も、はっきりしている。グラスから立ち上る華やかな香り(上立ち香)よりも、口に含んだときにふわりと広がる香り(含み香)を大切にする。それは、香りの華やかさで主張する酒というより、食中酒として、食事に寄り添うことを前提に設計された造りだという。和食はもちろん、洋食や中華とも調和するよう意図されている点も、この酒の特徴である。
バンコクの食卓へ
この設計思想は、バンコクという街でこそ意味を持つかもしれない。
バンコクの食文化は、和食もタイ料理も、洋食も中華料理も入り混じる、世界でも有数の多彩な食文化を持つ。香りの華やかさで主張するのではなく、多様な料理に寄り添うことを前提に設計された造り。そのあり方は、国境を越えて混ざり合うこの街の食文化とも自然に重なり合う。
米を磨きすぎないという選択が、国際的な評価へとつながった。ちえびじんの物語は、常識を疑うことの価値を、静かに伝えている。
This article is intended solely to explore the brewing philosophy and cultural heritage of Nakano Brewery (Nakano Shuzo) and the Chiebijin brand, and does not aim to promote or encourage the consumption of alcohol. / บทความนี้จัดทำขึ้นเพื่อนำเสนอข้อมูลเกี่ยวกับปรัชญาการผลิตและมรดกทางวัฒนธรรมของโรงสาเก Nakano Shuzo และแบรนด์ Chiebijin เท่านั้น มิได้มีเจตนาเพื่อส่งเสริมหรือโฆษณาเครื่องดื่มแอลกอฮอล์ สำหรับผู้มีอายุ 20 ปีขึ้นไป โปรดดื่มอย่างรับผิดชอบ
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