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隣人から騒音の苦情が出た。だからその店は隠れている|後から足された物語は、たいてい都合がいい

米国の酒類誌『Wine Enthusiast』が、世界各地の「隠れたバー」を扱う特集を2024年6月に公開している。そこに、ブエノスアイレスのFlorería Atlánticoという店が出てくる。

この店は入口を隠している。隠した理由として同誌が挙げているのは、雰囲気づくりではない。以前同じ場所にあった店に対して、近隣から騒音の苦情が出ていた。そのため、入口を隠したのである。同誌によれば、この店を手がけたのは、カクテルをつくるRenato Giovannoniと、飲食店を経営するJulián Díazである。

隠れた店と聞くと、多くの人は禁酒法の時代を思い浮かべる。禁酒法とは、米国で1920年から1933年まで続いた、酒類の製造・販売などを禁じる制度である。だが、この一軒の出発点にあるのは近隣とのもめごとだった。自慢できる話ではない。そして、自慢できないことのほうが、後で手がかりになる。

隠れ家らしさは、途中から演出にもなった

同誌はこう書いている。禁酒法の時代に、必要に迫られて隠れた酒場が生まれた。禁酒法がなくなったあとも、そうした酒場の一部は残った。

そのうえで同誌は、いまの流行が始まったのは2000年代初頭だとしている。この時期、こだわりのカクテルをつくる動きが広がった。それと同時に、禁酒法時代の雰囲気をまとった店が各地に現れた。テーマを決め、それに合わせた装飾を施す店や、1920年代風の見た目にした店があるとも書いている。

つまり、いま見えている隠れ家らしさは、当時の必要がそのまま残ったものばかりではない。七十年ほど経ってから、見せ方として選び直された部分がある。

言葉の出どころも、一般に思われているほど劇的ではない。スピークイージーという語は、1880年代の米国で使われはじめた。指していたのは、免許を取らずに酒を売る店である。反抗の物語ではなく、免許の話だった。

作られた物語のほうは、はっきり分かる

香港のFoxgloveの場合、物語が作り物であることを店側が隠していない。同誌によると、この店はFrank Minzaという架空の人物を設定し、内装をその設定に合わせている。運営会社の説明として紹介されているのは、英国紳士であり冒険家でもある、という人物像である。

注目したいのは、作り物だという点ではない。作られた物語は、格好いいほうへ寄りやすい。 冒険家の設定は登場する。近隣からの苦情は登場しない。

都合の悪さが、いちばん確かな手がかりになる

物語が本当かどうかは、聞いただけでは分からない。作り話も本当の話も、同じようになめらかに語れるからである。

ただ、一つだけ偏りがある。物語を後から足す人は、自分に不利な話をわざわざ作ることは少ない。だから、話の中に自分に不利な理由が残っていたら、それは事実である可能性が高い。苦情が来た。設備が買えなかった。人手が足りなかった。この種の理由は、宣伝のためには発明されにくい。

和酒の物語にも、同じ検査ができる

バンコクで和酒を扱っていると、伝統、手仕事、風土という言葉に何度も出会う。どれも事実であることが多い。そして、どれも売り手にとって都合がいい。つまり、この三語が出てきただけでは、まだ何も確かめられない。

確かめる方法は二つある。

一つは、その造り方を始めた当時の理由が記録に残っているかを見ること。もう一つは、その蔵が、都合の悪い事情も一緒に話しているかを見ることである。冬にしか働き手が集まらなかった。タンクを買い替える余裕がなかった。米が思うように収穫できない年があった。こうした話が混ざっているなら、その物語が事実に根差している可能性は高まる。

格好いい話しか出てこないうちは、まだ何も確かめていない。

Giovannoniたちが挙げる理由を、普通は誰も自慢しない。それだけで本当だと決まるわけではない。だが、確かめはじめる足場にはなる。


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