焼酎であって焼酎ではない一本──熊本・堤酒造「極上 堤」が酒税法上の枠を越えて守った琥珀色

焼酎であって焼酎ではない一本──熊本・堤酒造「極上 堤」が酒税法上の枠を越えて守った琥珀色

熊本県球磨郡あさぎり町。1878年(明治11年)創業の堤酒造が世に送り出した「極上 堤」は、ラベルには「焼酎」とは書かれていない。日本の酒税法のもとで、この酒は「リキュール」として分類されている。

ところが、焼酎原酒の原料は米と米麹である。球磨地方の伝統的な米焼酎の原酒を、オロロソ・シェリーカスクで10年以上熟成させた一本だ。

酒税法の枠を越えた琥珀色

なぜ焼酎が焼酎を名乗れないのか。理由は色の濃さにある。

日本の酒税法では、本格焼酎の着色度(吸光度)に厳格な上限が設けられている。背景には、焼酎がウイスキーより低い税率で課税されてきたため、樽熟成によってウイスキーなどと混同されることを防ぐ目的があった。

オロロソ・シェリー樽で10年以上熟成された極上 堤の色調は、深い琥珀色で、黒褐色にも近い。この色は法的上限を大幅に超えている。

選択肢は二つだった。白樺炭による濾過で色を抜くか、品目分類を変更するか。堤酒造は後者を選んだ。シングルカスクの風味を一切損なわず、無味無臭の食物繊維を添加することで法的に「リキュール」として扱われる形にしたのである。色も香りも味わいも、樽から出てきたままを残すという選択である。

米と、シェリーと、樽番号

製法はシンプルだが、設計は緻密である。焼酎原酒の原料は米と米麹。常圧蒸留で得た原酒を、ホワイトオークのオロロソ・シェリーカスクで10年以上眠らせ、最終的に食物繊維を加える。アルコール度数は40%。一般的な焼酎が20〜25%であることを思えば、国際的な蒸留酒市場で標準的な度数帯を意識した設計であることがわかる。

そして決定的なのは、シングルカスクであるということだ。複数の樽をブレンドせず、ひとつの樽から数百本のみが瓶詰めされる。各ボトルには樽番号が記される。同じ「極上 堤」でも、樽が違えば色も香りも味わいも違う一本になる。

専門家からは「シェリー樽熟成のシングルモルトと間違えるほど」と評される。その独特の輪郭は、米由来のクリーミーな甘味と、オロロソ由来のドライアプリコット、レーズン、蜂蜜の香りが交差するところに生まれる。

1878年から続く蔵が、世界の樽熟成酒の地図へ

堤酒造は、WTOの地理的表示として保護される「球磨焼酎」の生産者28社のうちの1社である。約150年の歴史を持ち、ホワイトオーク樽の輸入を50年以上にわたって続けてきた。近年では別ブランド「OKA GIN」がSan Francisco World Spirits Competition 2024で「Best Japanese Gin」に選ばれるなど、伝統と国際的なスピリッツづくりを結ぶ蔵として知られはじめている。

極上 堤もまた、樽熟成酒として国際市場で評価を集めはじめている一本だ。マレーシアの高級ウイスキー専門店ではアーチーローズやフェッターケアンといった銘柄と同じ棚に並び、米国・シンガポール・フィリピン・英国の専門ディストリビューターを通じて流通している。

バンコクの「もう一杯」のために

シェリーカスク熟成のスコッチを愛する人にとって、極上 堤は樽熟成酒の地図の、やや外れた場所にひっそりと立っている一本である。米から始まり、シェリー樽で仕上がる。樽の数だけ表情があり、各樽からは数百本しか瓶詰めされない。

タイのバーやファインダイニングのウイスキーメニューに「Japanese rice-based spirit, Oloroso sherry single cask」という一行が加わる日は、そう遠くないのかもしれない。


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