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「パリスの審判」から半世紀——実りはじめた葡萄樹を引き抜いた、ナパの日本人オーナー


「パリスの審判」から半世紀——実りはじめた葡萄樹を引き抜いた、ナパの日本人オーナー
1976年5月24日、パリでひとつのブラインドテイスティングが行われた。英国人ワイン商スティーブン・スパリュアとパトリシア・ギャラガーらが企画したこの会で、無名に近かったカリフォルニアのワインが、フランスの名だたる銘柄を抑えて高い評価を得た。白はシャトー・モンテレーナ、赤はスタッグス・リープ・ワイン・セラーズ。「パリスの審判」と呼ばれるこの出来事は、新世界ワインの地図を塗り替えた。
あれから、まもなく半世紀を迎える。
50年後の「審判」
2026年5月18日、カリフォルニア大学デイビス校のロバート・モンダヴィ研究所で、「パリスの審判」50周年を記念する品評会が開かれた。形式は、半世紀前と同じブラインドテイスティング。銘柄を伏せ、先入観を排して、純粋に中身だけを評価する。50年を経て、この方法がふたたび、カリフォルニアワインの現在地を問う機会となった。
その赤ワイン部門に、ナパの山あいから一つのワインが出品されていた。
完成した畑を、自ら作り直す
ケンゾー エステート。ゲーム会社カプコンの創業者・辻本憲三氏と夫人の夏子氏が、1990年にナパ・ヴァレーの土地を取得し、長い準備を経て2010年に開いたワイナリーだ。
その歩みには、ひとつの過激な決断がある。2000年代初頭、ようやく実りはじめた畑の出来が、目指す水準に届いていないと判断したとき、彼らは公式には10万本を超えるとされ、一部報道では約14万本ともいわれる葡萄樹を引き抜き、畑をゼロから作り直したという。完成しかけたものを、自らの手で壊して始め直す。妥協のない一本を目指すという思いの裏には、この自己破壊にも似た決断があった。
畑づくりにはデイビッド・アブリュー、醸造にはハイディ・バレットやヘレン・ケプリンガーといった、ナパを代表する造り手が関わってきた。
藍2021という一点
そして2026年、トップキュヴェ「藍(あい)」の2021年ヴィンテージが、デイビスで行われた「審判」の赤ワイン部門に並んだ。
ケンゾー エステートの発表によれば、招待審査員団は、この藍2021を赤ワイン部門で最も高く評価したという。もっとも、それは圧勝ではない。ケークブレッド セラーズやガーギッチ ヒルズ エステートなど、複数のワインのスコアが接近する、僅差での評価だった。
カベルネ・ソーヴィニヨンを主体に、メルロ、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドを少量加えた藍については、公式のテイスティングノートで果実の凝縮感と長い余韻が語られている。
ブラインドテイスティングが映すもの
パリスの審判から50年。銘柄を伏せて中身だけを問うこの方法が、半世紀を経て映し出すのは、「どこが一番か」という順位そのものではないのかもしれない。先入観を外したときに浮かび上がるもののひとつは、造り手が土地とどう向き合ってきたかという、その時間の積み重ねなのだろう。
葡萄樹を引き抜いてでも、畑を作り直す。藍2021は、そうした選別と作り直しの歴史における、現時点でのひとつの到達点である。
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