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カテゴリーの境界が溶けはじめたバックバー──2026年のバンコクで、日本酒、焼酎、泡盛、ワイン、ジン、リキュールが同じテーブルで出会う夜

カテゴリーの境界が溶けはじめたバックバー──2026年のバンコクで、日本酒、焼酎、泡盛、ワイン、ジン、リキュールが同じテーブルで出会う夜
バンコクの夜、ある一軒の小さなバーのバックバーを、できれば左から右へ、ゆっくり眺めてみてほしい。新潟・南魚沼の樫樽熟成米焼酎の隣に、琥珀色の奄美群島の黒糖焼酎が並び、その先には沖縄・今帰仁の樫樽七年熟成泡盛が控え、さらに先には北海道・余市のピノ・ノワール、その隣にはロワール渓谷の手摘みボタニカルから蒸留されたフレンチ・クラフトジンが置かれている。10年ほど前なら、このカウンター配置はおそらく成立しなかった。日本酒は和食店、ジンはバー、ワインはレストランというように、棲み分けの線が明確に引かれていたからである。2026年のバンコクで、その線が静かに溶けはじめている。
日本の発酵・蒸留酒、五つのカテゴリーの広がり
日本産酒類の側から見ると、この数年で「日本酒」「焼酎」「泡盛」「ジャパニーズウイスキー」「和製リキュール」といったカテゴリーの輪郭が、それぞれに明確になりつつある。新潟の八海醸造が黒麹三段仕込みで樽熟成米焼酎「風媒花」を造り、北海道・ニセコでは、スコットランド製のポットスチルでシングルモルトの仕込みを進めるように、一つの蔵が複数のカテゴリーを横断するようになっている。鹿児島・奄美の町田酒造は、減圧蒸留と常圧蒸留の原酒を別々の樫樽で育てて「里の曙ゴールド」に仕立て、和製ブラウンスピリッツの新しい輪郭を提示する。沖縄・今帰仁酒造の「千年の響」は、タイ産米を使った泡盛が琉球の樫樽と南蛮甕で琥珀色へと熟成していく循環の物語を、バンコクの食卓へ運んでくる。発酵から蒸留、樽熟成までを射程に入れた日本の酒造りが、いま前例のない多面性を獲得している。
日本ワインと、海を越える「土地の言葉」
ワインの側でも、地殻変動が静かに進行している。北海道余市町の登地区で、Domaine Takahikoがピノ・ノワールに「出汁」と「旨味」という日本固有の語彙を持ち込み、世界のソムリエが「umami」をそのままラテン文字で書きつけはじめている。2026年4月の見本市ProWine Tokyoでは、世界的評論家ジャンシス・ロビンソンMW氏が「日本ワインの現在地」と題したセッションに録画形式で登壇し、長野・山梨・北海道・熊本の造り手が、自らの土地の言葉でワインを語った。日本酒の蔵元が築いてきた「水・米・麹」のテロワール思想が、いま静かにワイン側へも越境している。フランスやイタリアの語法ではなく、自らの土地から立ち上がる語彙でワインを語る。その動きが、バンコクのワインリストにも届きはじめている。
ロワールの花と、和製リキュールの精緻化
ジン、リキュールの世界もまた、同じ夜のテーブルに静かに加わっている。ロワール渓谷の1834年創業のDistillerie Combierは、エッフェル技師陣が設計した蒸留室で、ジュニパー、レモンピール、アイリス、キュベブペッパー、リコリスといった八種のボタニカルを同じ釜のなかで一度だけ蒸留した「Combier Meridor London Dry Gin」を仕立てる。一方、日本側でも、米焼酎ベースの和製リキュールや、季節の柑橘・茶葉・木の実の香味を引き出すクラフト・リキュールが、精緻化の段階に入っている。ジンとリキュールは、もはや「カクテルの素材」ではなく、それ自体が一つの土地の言葉として、グラスの主役を担うようになった。
同じテーブルで出会う、という体験設計
注目すべきは、このカテゴリー横断が「品揃えの拡充」ではなく、「体験設計の組み替え」として進行している点である。バンコクのいくつかのレストランやバーは、コースの序盤に北海道のピノ・ノワール、主菜に琉球の樫樽七年泡盛、デザートにはロワールのジンをトニックで割った一杯を合わせる、というような構成を試みはじめている。共通しているのは、各杯の背後にある「土地の言葉」について、サービススタッフが短い説明を添える設計である。日本酒のソムリエがワインを語り、ワインのソムリエが焼酎を語り、バーテンダーがリキュールを語る。専門領域の境界が、グラスのなかでゆっくりと混じりはじめている。
2026年のバンコクで起きているのは、酒のカテゴリーが消えていくことではない。むしろ、それぞれのカテゴリーが、自らの土地の言葉をもっとも深く語れる段階に到達しはじめている、という静かな現象である。バンコクのカウンターで一夜のフライトが供されるとき、グラスの向こう側には、新潟の雪室と、奄美の亜熱帯の風と、沖縄とタイ米をめぐる循環と、余市の南斜面と、ロワール渓谷の手摘みの花が、それぞれの土地の時間とともに、重なり合うように息づいている。
This article is intended solely to explore the brewing artistry, distillation techniques, and cultural heritage of Japanese sake, shochu, awamori, Japanese whisky, Japanese wine, and French craft gin and liqueur as offered in the Bangkok food and beverage scene, and does not aim to promote or encourage the consumption of alcohol. / บทความนี้จัดทำขึ้นเพื่อนำเสนอข้อมูลเกี่ยวกับศิลปะการผลิต เทคนิคการกลั่น และมรดกทางวัฒนธรรมของสาเก โชจู อะวาโมริ วิสกี้ญี่ปุ่น ไวน์ญี่ปุ่น และเครื่องดื่มคราฟต์จิน/ลิเคียวร์จากฝรั่งเศส ที่นำเสนอในแวดวงอาหารและเครื่องดื่มของกรุงเทพเท่านั้น มิได้มีเจตนาเพื่อส่งเสริมหรือโฆษณาเครื่องดื่มแอลกอฮอล์ สำหรับผู้มีอายุ 20 ปีขึ้นไป โปรดดื่มอย่างรับผิดชอบ
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