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辛口の時代は終わったのか

2026年、日本酒の潮目が変わる3つの兆し

「辛口で」。

日本酒を注文するとき、この一言で片づけた経験がある人は多いだろう。1980年代以降、辛口(karakuchi)はモダンな日本酒の代名詞であり続けた。すっきりとしたキレの良さ、雑味のない透明感。それが「良い日本酒」の基準として、およそ40年にわたり醸造の方向性を支配してきた。

ただ、この潮目が明らかに変わりつつある。米国の酒類専門メディア『SevenFifty Daily』が、2026年の注目トレンドとして報じた3つの変化を見ると、日本酒が次の段階に進み始めていることが見えてくる。

果実味と酸味の台頭

ニューヨーク・マンハッタンの日本酒バー「Sake Bar Asoko」を運営するアリアナ・チョーは、来店客の嗜好の変化をこう語る。「多くの人はまだ日本酒を辛口でクリーンな飲み物だと思っている。ただ、最近は果実味やフローラルな日本酒の人気が明らかに高まっている」。

この変化の背景には、造り手側の技術的な挑戦がある。注目されているのが、麹の使い分けだ。

日本酒は伝統的に黄麹菌を用いて造られてきた。黄麹菌はデンプンを糖に変換する力に優れる一方、酸をほとんど生み出さない。一方で、焼酎に使われる白麹や泡盛に使われる黒麹は、クエン酸を豊富に生成する。近年では、一部の蔵元が白麹や黒麹を日本酒造りに取り入れ、従来の日本酒にはなかった柑橘系の酸味を引き出す試みを進めている。

ロサンゼルスの日本酒バー「Ototo」の共同創業者コートニー・カプランは、栃木県の蔵元・仙禽(せんきん)の名前を挙げる。仙禽は数年前から酸味を際立たせた日本酒を手がけ、当初は業界内で異端視された。「最初はみんなに笑われた。でも、今では酸味を押し出すことがトレンドの中心にある」。ワインの世界から日本酒に入ってくる層にとって、酸のある日本酒は直感的に理解しやすい。

生酒(なまざけ)の通年流通も、この流れと重なる。火入れ(加熱殺菌)をしない生酒は、フレッシュな果実味や酸味をそのまま残しやすい。かつては春先の限定品だったが、輸送・保管技術の進歩により、今では年間を通じて流通するようになった。東南アジアへの輸出においても、コールドチェーン(低温物流)の整備が進み、生酒の取り扱いが徐々に現実的になりつつある。

にごり酒とスパークリングの変貌

質感の変化も見逃せない。

ブルックリンで「Rule of Thirds」と「Bin Bin Sake」を展開するジョージ・パディラは、にごり酒の進化に注目している。にごり酒とは、もろみ(発酵中の液体)を粗く濾して白濁させた日本酒で、甘くてまろやかな入門酒という位置づけが長かった。しかし、パディラによると、最近のにごり酒はより軽く、ドライで、引き締まった骨格を持つものが増えている。「甘くて重いにごり酒しか知らない人は、今のにごり酒を飲んだら驚くと思う。料理との相性の幅も、ぐっと広がった」。

スパークリング日本酒の選択肢も広がっている。数年前まで、スパークリング日本酒は「手が出ないほど高いか、炭酸を後から注入した安価なもの」のどちらかだった。ここにきて、瓶内二次発酵(シャンパーニュと同様の製法)や、ペティヤン・ナチュレール(自然発泡)方式の日本酒が、中価格帯にも登場し始めている。

精米歩合の競争が終わった

3つ目の変化は、日本酒の根幹に関わるものだ。

日本酒の世界では長年、精米歩合(米粒をどれだけ削るか)が品質の物差しだった。大吟醸はより多く削られ、吟醸がそれに続き、純米や本醸造は比較的削りが少ない。蔵元のあいだでは「どこまで削れるか」の競争がエスカレートし、精米歩合1%という極限まで磨いた日本酒まで登場した。米の99%を磨き落とすという、ほとんど執念のような挑戦だった。

「あの競争は終わったと思う」。日本酒サブスクリプションサービス「Tippsy」のサチコ・ミヤギはそう語る。削ることで得られる繊細さの代わりに、蔵元たちは低精白で米の旨味を引き出す方向に舵を切り始めている。

この変化には、やむを得ない事情もある。日本酒の輸入会社Komé Collectiveのモニカ・サミュエルズは、日本の深刻な米不足を指摘する。酒米の価格は2023年以降2倍に高騰した。政策の変化、気候変動、インフレが重なり、最高品質の酒米の産地ほど打撃が大きいという。「削りすぎれば、高価な原料の大部分を捨てることになる。これはもう、生き残りの問題だ」。

必然から生まれたこの転換は、別の価値を生み出している。蔵元たちは産地固有の米品種に光を当て始めた。岡山県を代表する酒米「雄町(おまち)」は、その先駆的な存在で、「Ototo」のカプランによると、日本では自らを「オマチスト」と名乗り、雄町を使った日本酒を追い求める愛好家グループまで存在する。

愛知県の「九平次」で知られる蔵元は、自ら兵庫県で山田錦を、岡山県で雄町を栽培し、畑ごとの個性を銘柄に反映させている。ワインの世界で当たり前とされてきたテロワール(土地の個性)の発想が、日本酒の造り手のあいだにも確実に広がりつつある。

変わらないために変わる

辛口一辺倒から果実味と酸味へ。甘いにごり酒から、ドライで骨格のあるにごり酒へ。精米歩合の競争から米品種の個性へ。

3つの変化に共通するのは、日本酒が「引き算の美学」(磨く・削る・雑味を除く)から、「足し算の多様性」(酸を引き出す・にごりを残す・米の個性を生かす)へ移行しつつある点だ。これは劣化ではなく、成熟の兆しだ。


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