GIN
日本のジンは、何からできているか

ジャパニーズジンは、柚子や山椒、緑茶といった植物の名前で語られがちです。しかし、一本の輪郭を決める問いはその前にあります。ボタニカルを重ねる前に、何を土台の蒸留酒に選ぶのか。その選択には、土地で酒を造ってきた時間と、何を残したいかという造り手の考えが表れます。
ジンの定義は簡潔です。蒸留酒にジュニパーベリーを中心とする香味を与えること。原料の穀物、産地、熟成の有無は厳密には決められていません。この自由さが、蒸溜所ごとに異なる答えを生みます。
米を土台に据える
香川県琴平町で1789年から酒を造る西野金陵は、夕凪GINの土台に本格焼酎を選びました。原料は讃岐の酒米です。香りをつくる植物だけでなく、その香りを受け止める酒にも、長く米と向き合ってきた仕事を置いています。瀬戸内・四国の植物を重ね、香川県にゆかりの深いオリーブも加えることで、土地の記憶は土台と香りの両方に残ります。
自分たちの酒を、レシピへ持ち込む
奈良県の梅乃宿酒造は、別の形で同じ問いに答えます。梅乃宿ジンには、ゆず、レモン、りんご、ジュニパー、コリアンダーシードとともに、自社の日本酒が使われています。日本酒は主張を強く押し出すためだけの材料ではありません。果実や種子の香りを結び、全体の質感を整える役割を担います。
植物で、土地を語る
広島のSAKURAO GIN ORIGINALは、土地をボタニカルの側で表現します。14種のうち9種が広島県産で、複数の柑橘が含まれます。土台を説明の中心にするのではなく、瀬戸内の果実がつくる明るい香りを前に出す設計です。同じ日本らしさという言葉でも、米を選ぶ蔵と植物を選ぶ蔵では、一本の中で見せる景色が違います。
あえて、土台を手放す
北海道ニセコ町のNISEKO ohoro GINは、あえて中立的な醸造アルコールを選びます。新潟で日本酒を造ってきた八海醸造グループの蒸溜所でありながら、自社の最も強い資産を前面に出す代わりに、ジュニパーを軸としたクラシックな骨格を優先するためです。北海道由来のヤチヤナギとニホンハッカは、土地を大きく語るためではなく、全体の輪郭に小さく置かれています。
土台から読む、一本の違い
香りの印象だけでは、似た植物を使うジン同士の違いを説明しきれません。口に含んだときの厚み、香りがほどける速さ、水やトニックを加えた後のまとまり方は、土台の性格にも左右されます。何を加えるかだけでなく、何を前面に出さないかにも蒸溜所の思想があります。ボトルを手に取るとき、植物の名の次に土台へ目を向けると、見えてくる景色が変わります。
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