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乳酸菌を待つという選択──2026年、生酛と山廃が静かに戻ってきている

乳酸菌を待つという選択──2026年、生酛と山廃が静かに戻ってきている

夜明け前の酒蔵、若い蔵人が櫂棒を抱え、半切りと呼ばれる浅い桶の前で蒸米と麹と水を擂り潰していく。合唱のように繰り返される「酛摺り唄」が、冷え切った板の間に低く響く。江戸時代からほとんど姿を変えずに続いてきた、生酛(きもと)造りの景色である。

現代の日本酒のほとんどは、この工程を踏まない。醸造用の乳酸を人の手で添加し、2週間ほどで酒母を立ち上げる「速醸酛」が、明治末に国の研究機関から提案されて以来、業界の標準になった。生酛と、その派生形である山廃で造られる酒は、今も全体の1パーセント前後にとどまるといわれる。それでも2026年に入ってから、業界メディアで「生酛・山廃が静かに戻ってきている」という声が目立ち始めた。

速醸の「合理」と、生酛の「時間」

酒母は、酵母を大量に培養する最初期のタンクである。ここで問題になるのは蔵に存在する雑菌で、乳酸の酸性環境によって抑えられ、酵母だけが生き残れる場が作られる。速醸では醸造用の乳酸を加えて約2週間で立ち上げるが、生酛では乳酸を添加しない。蔵に棲みつく乳酸菌が、冷え切った半切りのなかで自然に増えてくるのを待つ。山卸(やまおろし)という重労働を経て、硝酸還元菌、乳酸菌、酵母という微生物の連鎖が、およそ4週間かけて静かに起きていく。山廃は山卸を省いた派生形で、1909年に国立醸造試験所が発表した。基本は生酛と同じ「待つ」哲学に属する。

野生の微生物が織りなす、複雑さの層

蔵そのものに棲む微生物と時間に委ねることで、液体のなかには想定外の複雑さが書き込まれる。香りには乳製品のミルキーさ、ヨーグルト、焦がしたキャラメル、干したきのこ、森の下草といった要素が重なる。味わいには、速醸では出にくい力強い酸と、舌の上で長く広がる旨味がある。工程が長いということは、途中で多くの変数が介入することであり、必ずしも蔵の思い通りにはならない。この「決めきれなさ」が、皿の上のスパイスや発酵食品、脂や苦味と向き合ったときに、新しい風景を生む力になる。

2026年、関心が高まる三つの背景

ひとつめは、ナチュラルワイン、サワードウブレッド、クラフト味噌、野生酵母ビールといった「自然発酵」の流れが、この10年で私たちの舌を慣らしてきたこと。蔵付き乳酸菌に時間を委ねる生酛・山廃は、その文脈に置かれたとき、ようやく意味がくっきりと見える。ふたつめは、2010年代後半からの若手杜氏への世代交代である。彼らの多くは速醸の効率を前提としながら、あえて「選び直す」形で生酛・山廃に戻っている。みっつめは、飲み手の変化である。冷酒一辺倒の吟醸世代から、燗で広がる酸や旨味を楽しむ層が、着実に広がってきた。

バンコクの食卓と、蔵付き微生物の地続き

タイ料理のテーブルには、発酵と酸と脂と辛みが常に同時にある。ナムプラー、プラーラー、ナムプリック。バンコクの家庭料理の発酵文化は、蔵付き微生物の世界と地続きにある。時間をかけて野生の乳酸菌を引き寄せる生酛・山廃は、熱帯アジアの発酵文化の延長として読める酒になる。軽く冷やした山廃純米を、ソムタムの青パパイヤと干しエビの隣に置いてみる。蔵付き乳酸菌がもたらす力強い酸が、ライムの酸味と魚醤の旨味に重なり、皿の塩気を穏やかに引き締めていく。暑い地域では、冷蔵庫から出したばかりの酒を注ぎがちだが、生酛・山廃はむしろ18度から20度、人肌に近い温度で本領を発揮する。

生酛・山廃の比率が全体の1パーセントにとどまっていることは、技術的な劣位を示すものではない。速醸のほうが安定し、効率も高い。それでも続ける蔵があるのは、そこにしか書き込めない味わいの層があり、その層を求める飲み手が一定数いるからである。次にラベルで「生酛」や「山廃」の文字を見つけたとき、その向こう側には、人の手ではなく、蔵そのものが造った酒が静かに控えている。


This article is intended solely to explore the traditional brewing techniques and cultural heritage of kimoto and yamahai sake methods, and does not aim to promote or encourage the consumption of alcohol. / บทความนี้จัดทำขึ้นเพื่อนำเสนอข้อมูลเกี่ยวกับเทคนิคการผลิตดั้งเดิมและมรดกทางวัฒนธรรมของสาเกแบบคิโมโตะและยามาไฮเท่านั้น มิได้มีเจตนาเพื่อส่งเสริมหรือโฆษณาเครื่องดื่มแอลกอฮอล์ สำหรับผู้มีอายุ 20 ปีขึ้นไป โปรดดื่มอย่างรับผิดชอบ


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